飛騨の匠の物語3

洋家具作りが始まったのは、大正9年である。

大正時代の飛騨は、鉄道もなく陸の孤島と呼ばれるにふさわしい
交通不便な山の中の町だった。

四方にそびえ立つ山々には、ブナの原生林がうっそうと繁り
昼も暗い密林地帯であった。

明治初期頃より、指物や箪笥などの和家具作りはされていたものの

当時、ブナ材といえば雑炭か下駄の歯程度の用途しかなく
無用の長物として見捨てられていた。

●飛騨の家具作りの発祥 ブナ材の曲げ木活用●

木材を蒸して型に入れ曲げる方法を世界で最初に考え出したのは
ドイツのミヒャエル・トーネットである。

1856年にオーストリアで世界で始めて曲げ木工場の建設に着手。
1859年には曲げ木椅子の多量生産を開始。
世界各国に販売され、今でも曲げ木といえばトーネット、
といわれるほどの椅子も生まれた。

2億本売れた椅子

その椅子の秘密は、ブナの木をUの字に曲げて椅子の部材を作る。
軽くて、輸送や製造コストも安くつく。
木理が通っているので、細くても丈夫。
たとえ壊れてもパーツの交換で修理が済む、というシンプルな基本構造にあった。

明治40年頃には、東京曲木や大坂の泉製作所が曲木家具の製作を始めた。
わが国における曲げ木家具製作の始まりである。

役に立たないとされていたブナの木が適材としての評価を得ると
ブナ材を求めて、明治44年には、秋田木工に、
9年後の大正9年には飛騨に伝わった、というわけである。

                         つづく

参考文献:新・飛騨の匠ものがたり

札幌ファニシングTERRA
「飛騨の家具展」開催中

2012/02/07 by 札幌ファニシング TERRA staff